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美しい空間は、人のストレスを軽減するのか 第10弾 山田秀和先生×ノーブルホーム【後編】

美しい空間は、人のストレスを軽減するのか 第10弾 山田秀和先生×ノーブルホーム【後編】

ノーブルホームの性能ラボコラム第10弾。アンチエイジング研究の第一人者である山田秀和先生と、性能ラボメンバー上野との対談、後編をお届けします。

 

前編では、住まいが人の「精神」に働きかけ、ストレスを和らげる可能性についてお話を伺いました。後編のテーマは、その変化をどう捉えるかです。環境が人の見た目を変えるという現象から、住まいの価値を測る新しい方法を探ります。

目次

環境が変わると、人の見た目も変わる

 

山田先生が以前から用いている言葉に、「パリス効果」があります。地方からパリに出ていった人が、いつのまにか都会の人らしくなっていく。その現象を指した、先生独自の呼び方です。

 

山田先生「私の高校の同級生は大阪の出身でしたが、大学で東京に出て、しばらく経って帰ってきたら、ずいぶん雰囲気が変わっていました」

 

上野「いわゆる垢抜ける、ということですね。環境が変わると、見た目まで変わっていく」

 

山田先生「面白いのは、海外の大学に進んだ同級生が、帰ってきたときにがらりと感じが変わっていたことです。ところが日本の企業に勤めて二十年ほど経って会うと、元に戻っていました。パリス効果が切れてしまうんです。これはエピジェネティクスなのだろうと考えています。遺伝的な背景だけでなく、遺伝子の働き方が環境によって調整されているということです」

 

環境が変われば人の表情や雰囲気も変わり、環境が戻れば、また元に近づいていく。もしそうであるなら、毎日を過ごす住まいは、人にもっとも長く働きかける環境ということになります。

 

新しい家に住むと、顔つきが変わる?

対談の中で山田先生から出たのが、住まいによる変化を顔の表情から捉えてはどうか、というご提案でした。

 

山田先生「新しい家に住むと、ワクワクして生活が楽しくなるという話があります。環境を良くすることで顔つきが変わるのであれば、工事が始まる前から週に一度写真を撮り、変化を追ってみてもよいと思います」

 

かつて、顔つきや幸福感の変化を客観的に捉えることは簡単ではありませんでした。

 

山田先生「以前はシワの数をデジタルデータとして計算していました。幸福感については、ビジュアルアナログスケールで「あなたはどれだけ幸せですか」と0から100で答えてもらう方法もありました。今はAIで解析できるので、以前よりずっと簡単になっています」

 

高断熱・高気密な住宅に住むこと、自分の好きなデザインに囲まれて暮らすこと、家族が自然に集まって笑顔になる時間が増えること。その変化が表情として現れるのであれば、それは住宅の新たな価値を示す一つの手がかりになるかもしれません。

 

ウェアラブルで「傾向」を捉える

上野「好きなものに囲まれた住環境が、ストレスや健康、見た目の変化にどうつながるのか。これをデータとして捉えるとしたら、どのような方法が考えられるでしょうか」

 

山田先生「取り組みやすいのは、パーソナルヘルスレコードです。例えばリング型のデバイスを使えば、心拍数や心拍変動を継続的に確認できます。住環境によってストレスの傾向がどう変わるのかを見るには、一つの方法になると思います」

 

心拍数や心拍変動、睡眠、表情の変化。さらに、本人が感じている幸福感や暮らしへの満足度。複数のデータを組み合わせることで、住環境が人に与える影響を、より立体的に捉えられる可能性があります。 ここで重要なのは、医療上の診断を行うことではありません。

 

山田先生「厳密な数値の相関にこだわるのではなく、傾向をつかんでヘルスケアの領域で進めていくべきだと考えています。世界では、傾向をつかめば十分だという見方が一般的です」

 

暮らしの中で生じる変化の「傾向」を捉えること。それが、住まいと人の関係を明らかにする第一歩になります。

 

感覚的な価値を、信頼できるデータへ

住宅やインテリアの価値には、数値だけでは表しにくいものがあります。

 

「なんとなく居心地がいい」
「この家に帰ると安心する」
「以前より笑顔が増えた」
「毎日の暮らしが楽しくなった」

 

これまでは個人の感想として扱われてきたこうした変化も、継続的に記録することで、住宅の価値を示すデータになるかもしれません。

 

一方で山田先生は、データの信頼性を確保することの重要性も強調します。

 

山田先生「建物やデザインがどれだけ人に影響を与えるのかを数量化できれば、大きな意味があります。ただし、都合よく加工されたデータでは価値がありません。取得した事実を変えられない仕組みを整え、信頼できるデータとして蓄積することが重要です」

 

山田先生「難しい指標をいくつも設けるよりも、直感的に良いと思えるものをまず一つ基準として置いて、そこから数量化を始めるのがいいと思います」

 

ノーブルホームは今後、山田先生をはじめとする専門家の協力を得ながら、住まいの性能とデザインが、人のストレスや表情、心身の状態にどのような変化をもたらすのかを検証していきます。2050 STANDARD HOUSE PROJECTを通じて取り組んできた住宅性能の追求に、もう一つの軸を重ねる試みです。

 

目指すのは、単に暖かい家や、美しい家をつくることではありません。その家で暮らすことで気持ちが整い、自然と笑顔になり、ベストな自分で毎日を過ごせること。これまで感覚で語られてきた住まいの力を、データによって確かめていく。それが、ノーブルホームと山田先生が始める新たな挑戦です。