性能ラボ
松尾先生と考える これからの住宅のあるべき姿 第4弾 松尾設計室×ノーブルホーム 前編

茨城県を拠点に高性能な住まいづくりに取り組むノーブルホーム。この度、健康で快適な高性能住宅の権威である松尾設計室の松尾和也氏と共同で、新たな住宅商品を開発しました。今回はノーブルホーム性能ラボのメンバーが兵庫県の松尾設計室を訪問し、これからの住まいのあり方について語り合いました。
目次
松尾設計室×ノーブルホームの家
創業以来、デザイン・コスト・クオリティにこだわった家づくりを行ってきたノーブルホーム。創業30周年を機に「健康な暮らし」に改めて着目し、松尾先生の研修を通して多くの知識や技術を学ばせていただきました。そしてこの度、実現したのが、両者のコラボレーションによる新たな住宅商品の開発です。
前島「私たちノーブルホームはお客様に寄り添う提案力を大切にしてきましたが、さらに一歩進んで、より良い方向へ導いていく視点も必要だと感じていました。これまで実大実験による耐震性能などの取り組みは行ってきましたが、断熱・気密・換気などについてもお客様にわかりやすく伝える力を高めたいと考え、松尾先生のお力をお借りすることになりました」
今回開発した住宅で目指したのは、健康で快適な暮らしをコストパフォーマンス良く実現すること。断熱等級6を標準採用し、パッシブ設計による太陽熱の活用と、季節に応じて床下・小屋裏を活用する全館空調システムを組み合わせました。
住まいの基本性能、断熱・気密を高める
ノーブルホームの高性能住宅の土台となるのが、断熱・気密性能の向上です。屋外の寒さや暑さの影響を受けにくく、最小限の冷暖房で住宅内の温度を一定に保つことができます。快適に過ごせるのはもちろん、省エネや光熱費削減にも役立ちます。
松尾先生「住宅の断熱性能は、洋服に例えると分かりやすいと思います。例えば、寒い屋外でもダウンジャケットを着れば暖かくて病気にもなりにくいですが、寒いのに半袖短パンだと大量のカイロを使うなどして出費もかさみますよね。暑い夏については、日除けのタープをイメージしてみてください。夏にペラペラの薄いタープを使うより、しっかりと分厚いタープを使ったほうが暑さも遮断できます」
上野「断熱と同時に重要なのが、いかに住まいに隙間をなくすかという気密性能です。断熱が不十分だと熱がじわじわと逃げていき、気密が不十分だとせっかくの冷暖房効果も隙間から逃げてしまいます。そのためノーブルホームでは社内の性能基準を一段階引き上げ、外皮・断熱・気密性能の向上に取り組んできました」
パッシブ設計・全館空調でさらに快適な環境を
また、ノーブルホームのある茨城県は、日射量が多いという地域特性もあります。そこで重要になるのがパッシブ設計。松尾先生にもご教授いただきながら、地域の気候に合わせた設計を行ってきました。
松尾先生「パッシブ設計を一言で言うと『太陽に素直な設計』です。人間でも真夏なら一歩でも日陰に行こう、冬なら日向へ行こうと思いますよね。それと同じように、夏の日射は遮り、冬の日射は取り入れるよう庇やシェードなどを活用します」
実際にパッシブ設計による経済効果は大きく、適切に日射を取り入れることで、暖房費を大幅に削減できます。例えば晴れた冬の日なら、朝7時から夕方5時までの日照時間だけでも、相当な暖房エネルギーを無償で得られることになります。
松尾先生「例えば、南向きに設置した掃き出し窓1枚から得られる熱量は、こたつ1台分に匹敵します。4枚設置すれば、6畳用エアコンを終日運転するのと同等の熱を、太陽から無償で得られるのです」
さらに、ノーブルホームの新しいモデルハウスでも取り入れているのが、全館空調の仕組みです。冬と夏の空気の流れを考慮したシステムで、家中まるごと一年中快適な室温を実現します。
上野「冬は足元の温度が体感温度に一番影響するため、足元から温める床下エアコンを採用しました。小屋裏空間には夏用の冷房とともに、換気システムと空気清浄機の機能を持ち合わせたシステムを設えています。2025年初夏頃にオープン予定のモデルハウスでご覧いただけるので、近隣にお住まいの方はぜひご来場ください」
健康価値を考える新しい住まいづくり
近年、広く認識されるようになった「断熱」「気密」という言葉。しかし、以前は住宅選びの際に、性能面はそれほど重視されていませんでした。
松尾先生「15年ほど前は断熱についてお話しすると、どこか極端なことを言っているように見られたものです。しかし今では、多くの方が『断熱について教えてほしい』とおっしゃいます。大学の研究者や実務者、住宅会社、建材メーカーの地道な啓蒙活動が複合的に効いてきたのでしょう。また、東日本大震災の節電要請をきっかけとした省エネへの関心の高まりや、近年の健康志向の高まりも背景にあると感じます」
健康志向の高まりは、テレビ番組を見ても明らかです。かつては娯楽番組やスポーツ中継が中心でしたが、今では健康をテーマにした情報番組が連日放送されています。ただし、その主な視聴者層は中年以降の方々。住宅購入の中心となる若い世代にとって、「健康」はどのような価値を持つのでしょうか。
前島「住宅購入を検討されている方の多くは、20〜40代の若いご家族です。皆さん『風邪を引いても寝れば治る』と仰るように元気なので、『健康な家』という言葉にはあまりピンとこないかもしれません。しかし『お酒やタバコをやめなきゃ』とグッズを買ったり、『ダイエットをしなきゃ』と運動をしたり、努力をして健康になろうとされている方は多いですよね」
松尾先生「たしかに、禁酒・禁煙・運動というのは、いずれもかなりの努力が必要です。睡眠時間を長くしなければと思いながら、なかなか実践できていない方も多いと思います」
前島「しかし、健康が叶う家に住んでいれば、ただ普通に生活するだけで健康になれる。温度差が少ないので体に負担が少なく、睡眠時間は延び、病気になるリスクも少なくなるんです。そのように人々を自然と健康に導く家づくりを、ノーブルホームでは目指しています」
快適に暮らせて光熱費が削減できるだけでなく、住まい手の健康にも大きく影響する住宅の性能。後編では、実際のデータを用いながら、具体的な健康への影響や医療費・介護費といった経済的メリットについてもお伝えします。